蔵人の情熱と技術、経験が結実した 「節五郎出品酒」の酒米違い3種

時を継ぎ、未来を醸す。「節五郎出品酒」01
蔵人の情熱と技術、経験が結実した
「節五郎出品酒」の酒米違い3種
1911年に始まった歴史ある「全国新酒鑑評会」には、毎年、日本中の酒蔵から800点あまりの酒が出品され、金賞受賞に挑みます。菊水酒造では、培ってきた経験と技術を注ぎ込んだ出品のために醸した酒を、創業者・節五郎の名を冠した「節五郎出品酒」として販売することになりました。「酒米菊水」「越淡麗」「山田錦」の酒米違い3種類の大吟醸酒を、各種100本限り。製造に携わった蔵人の五十嵐雄太と阿部裕一に、この酒にかける思いを聞きました。(2025年4月取材)
技術と先人の叡智で醸す鑑評会出品酒
「鑑評会は車の世界で言えばF1。出品酒はコンテストで入賞を目指した酒であり、金賞というゴールに向かって造ります」と話すのは、この10年間出品酒造りの責任者を務め、「節五郎出品酒」の製造全体を統括する五十嵐雄太。 「大切なのは、どんな酒にするかという目標決めと、そこから逆算した米や水の配合、具体的な工程の計画作りです」と力を込めます。
目標を決めてから取り掛かるのは、その年の原料米の特徴を見極めること。菊水酒造には年ごとの原料米の精密なデータが数十年分、蓄積されています。データが近い原料米の年の酒造り方法を参考に、製造レシピを完成させ、酒造りを始めます。
5年前から出品酒に本格的に携わるようになった酒造り34年のベテラン蔵人・阿部裕一は、「出品酒造りは金賞を受賞しなければというプレッシャーがありますが、ワクワクもしますね」と笑顔で語ります。
出品する大吟醸酒の基本の造りは「高精白、突きはぜ麹(蒸し米の表面にまばらに麹の菌糸が繁殖し、中心に向かって突くように根を張る)、低温発酵。これをベースに、造りの状況経過を観察。想像力も駆使しながら進行を管理し、目指す酒に向かって挑戦します。出品酒に限らず、酒造りは全ての工程で刻々と状態が変化するのが面白いですし、夢中になります。生き物を育てている感覚ですね」と阿部は言います。

酒米3種それぞれの特徴を生かし、
味わいを追求して仕上げた逸品
「節五郎出品酒」は酒米違い3種類が商品化されている。 この3種類の造りについても二人に聞きました。
酒米菊水
1937年に愛知県で誕生したものの、戦中の食糧難により一度市場から消えた「酒米菊水」は、菊水酒造と協力農家さんが25粒の種もみから復活させた幻の品種。阿部は「麹造りの段階で水分が飛びやすく、菌の繁殖スピードが鈍い。水分調整の難しい酒米ですが、その分、仕込み配合や温度調節、水分補給のタイミングなどを工夫し、思い通りの酒の味わいをつくりだすのが楽しいんです。山田錦と同じ造りにすると、苦味、渋味が尖り甘みがあっても水っぽい、旨みの薄い酒になってしまう。そうならないよう最大限の注意を払いました」。
越淡麗
「越淡麗」は酒米「五百万石」と「山田錦」を掛け合わせた晩生品種。1996年に新潟県の農業試験場で誕生しました。五十嵐は「飲み口のきれいな酒になる酒米ですが、油断するとインパクトのない酒になりがちです。鑑評会では味わいに幅があり、かつふっくら感のある酒でないと入賞できません。今回はきれいさとふっくら感とのバランスが良い、満足のいく仕上がりになっています」。
山田錦
全国の大吟醸酒に幅広く使用されている「山田錦」について、阿部は「大粒で、雑味が少なく心白(しんぱく)が大きいので酒を造りやすいのですが、配合や管理を間違えると味が重ったるく、香りもぼやける。仕込み時の状態=状貌(じょうぼう)を見守り、数値や成分を確認しながら進めました。華やかな香りで飲みごたえのある、力強い酒になったと思います」。

出品酒で培った技術を市販酒に活かし、
後進育成にもつなげる
五十嵐は「鑑評会で金賞を受賞したら終わりではない。出品酒造りの経験とデータを、市販酒の酒造りに活かし、おいしい酒を多くのお客さまにお届けしたい」と話します。「出品酒造りも含め、菊水酒造ならではの酒造りのノウハウや、自分の経験から得た気付きや見方などを後輩たちに伝え、彼らが製造責任者になった時に役立ててほしいですね」と阿部。
出品酒造りは、これまでに培われてきた技術を受け継ぎ、そして今後につなげるという過去と未来をつなぐ役割を持っています。
菊水の蔵人
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五十嵐 雄太(いからし ゆうた)
1983年、新潟県新潟市出身。新潟大学でイネを研究し、実家が酒販店で日本酒が身近であったこともあり、2009年に菊水酒造へ入社。2年間で全部署の勤務を経験した後、11年に製造部門に配属となった。現在はほぼ全ての商品を製造する「二王子蔵」と、主に鑑評会出品酒や海外向けプライベートブランド酒を生産する「節五郎蔵」の両方を統括している
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阿部 裕一(あべ ゆういち)
1972年、新潟県聖籠町出身。日本酒好きの父の影響と酒造りへの興味から91年に菊水酒造へ入社。製造と製品の現場経験を経て2015年「二王子蔵」に配属。21年、製造責任者に就任。キャリア34年のベテラン蔵人

蔵人インタビュー
時を継ぎ、未来を醸す。「節五郎出品酒」


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